ネタが思いつき、世界観やキャラクターを作り終え、おおよそのストーリーの流れが出来た後は、実際に物語を描いていく工程になります。
その際に、どういう流れでストーリーを展開させるかを考えるかと思います。
ですが、このスタートの部分、いわゆる起承転結の「起」の部分を適当とはいわなくても、あまり気にせずに書き始めていないでしょうか?
いわゆる冒頭で読者の心を掴んだあと、物語が動き始める「起」の部分で読者を乗せられるかが決まってきます。
今回はその「起」の部分でやってはいけない注意点を解説します。
このやってはいけないという点は、油断するとベテランの作家でもやってしまう場合があります。
しっかりと意識して「起」を作る癖をつけましょう
人は知らないものに感情移入できない
以前、キャラクター作りの記事でも書きましたが、人は知らないものには感情移入できません。
事故、病気、事件など、日々、人間が亡くなるニュースが流れてきます。
そのニュースを見ても、人々は「可哀そう」とか「酷い事件だ」と思うことはあっても、そこまで心を痛めることはしません。
というより、毎日心を痛めている状態だと現代では心が持ちません。
ですが、その当事者が知り合いや身内であれば、そんなことは言ってられません。
あなたは、酷く落ち込み、心に傷を残すことになるでしょう。
この差は何かというとあなたが「知っているか」どうかになります。
これは物語でも言えることです。
モブが死ぬのと、主要人物が死ぬのとでは衝撃が全く違います。
これもそのキャラクターを「知っているか」どうかになります。
何が言いたいかというと、物語が始まったら、まず何をやらなければならないかという話です。
もう、お分かりですね。
そうです。
まずやらなければならないのは、読者を感情移入させる「主人公」を「知ってもらう」ことです。
例え、一番最初に登場させたとしても、例え、多くのシーンに登場していたとしても、読者に「知ってもらわなければ」、それはただの「モブ」と変わりません。
モブには感情移入はできないことは上で記述した通りです。
そんなのは当たり前だ、もうやっているという方も多いでしょう。
ですが、これは逆に描き慣れている方に多いのですが、「物語」を早く進めようとして、主人公の紹介と事件のきっかけを同時にやろうとして、「主人公の紹介が疎か」になるパターンがあります。
例を出して考えて見ましょう。
ほとんどの人が見たことがあるであろう「天空の城ラピュタ」で考えてみます。
天空の城ラピュタでは、冒頭はシータが飛行船から落ちるシーンから始まりますが、その後はパズーの描写にすぐに移ります。
パズーが工房で働く姿を描き、その後にシータが空から落ちてくるシーンになります。
シータを受け止めて、その場に寝かせ、上着をシータにかけてあげて、仕事に戻っていきます。
その後、パズーは朝にラッパを吹いてハトを飛ばし、町の人たちに朝を知らせます。
シータとの朝食のシーンになり、「パズーの目的であるラピュタを探している」というシーンを描いていきます。
そして、「その後に」工房にドーラ一家がやってくることで、「主人公であるパズー」の「事件が開始」される「起」に至る流れです。
どうでしょうか。
起となる事件が起こる前に、しっかりとパズーというキャラクターがどんな人物なのかを「視聴者に紹介」していますね。
もし、これを、「早く事件を開始させたい」、「早く物語を動かしたい」からと言って下記のような流れにしたらどうなるでしょうか。
パズーが働いているところに、シータが落ちてきます。
慌てて保護したところに、待ってましたとばかりにドーラ一家がやってきて、目覚めたばかりのシータを連れてパズーが逃げていく。
どうでしょうか。
想像してみてください。
ほとんどの視聴者は「は?」となるかと思います。
一体、パズーという少年は何者なのか、どんな性格なのか、どんな目的を持っているのか、そもそも少女を庇う理由はあるのか、などなど、視聴者の頭の中は次々と疑問が沸き上がり、それを整理する暇もなくストーリーが展開されていきます。
「後から説明されるだろう」と思って見続けてくれる視聴者はまだ優しいです。
ただ、何割かの視聴者は見るのを止めてしまうでしょう。
早く物語を進めたいのはわかります。
早く事件を起こして読者を引き込みたいのもわかります。
ですが、読者の代弁者としての主人公に、まずは感情移入してもらわないと、そもそも物語を身近に感じてもらえません。
それでは、ニュースの中で起こっている事件と同じになってしまいます。
物語の主人公を「知っている人」、「身内」のように思ってもらって、初めて読者はその物語の「当事者」になるわけです。
人は疑問を解きたい生き物
これも以前の記事で書いたのですが、人は好奇心が強く、疑問があれば解きたいという本能を持っています。
クイズ番組のCMに入るタイミングの例をあげて解説しました。
この好奇心を逆手にとって、読者を物語に深く引き込む手法があることは解説しました。
ですが、今回はこの手法をスタートでやってしまうと失敗してしまうということを解説します。
上のクイズ番組のCMに入るタイミングの例で考えてみましょう。
番組で、クイズを出し、「その答えは……CMの後で」というのが定番の流れですね。
では、なぜ、これが定番かというと視聴者は「クイズの答えが知りたい」という本能的な部分を利用してCMを見てもらおうという手法です。
言い方を変えると「チャンネルを変えられない」ようにするための手法です。
もう少し噛み砕くと、「クイズの答えが気になって」、「他の番組にチャンネルを移すことができない」状態になっているということです。
これは物語でも言えることです。
「疑問や謎」が出てくると、「それが気になって」、「他のことに気が回らなくなる」ということです。
上で解説しましたが、物語は「まずは主人公のことを知ってもらう」ことが重要です。
察しの良い方は何がいいたいのか、わかったでしょう。
そうです。
「主人公を紹介しようとしている」のに「謎や疑問」を出してしまうと、疑問の方に読者の気が向かってしまうということです。
作者は一生懸命、主人公を紹介しているのですが、読者の頭の中は「謎や疑問」の方でいっぱいになっているのです。
これでは主人公をいくら紹介しても、読者の中では「知らない人」のままとなってしまいます。
では、この状態を避けるにはどうすればいいのでしょうか。
答えは簡単ですね。
謎や疑問を抱かせない、もしくはすぐに解決していくのです。
ただ、全く謎を出すなというわけではありません。
立て続けに出さない方がいいということです。
「起」の段階で出すとするなら、2つくらいが限界でしょうか。
それ以上になると、主人公の紹介に気が回らなくなります。
よくやってしまう失敗例としては、最初から謎に謎を重ねて、ストーリーを動かしてしまうパターンです。
もしくは独特の専門用語を出して、それがきちんと説明されないなども、やってしまう失敗例ですね。
物語の序盤に色々と説明したいという気持ちはわかります。
ですが、序盤だからこそ、しっかりと主人公に感情移入してもらうことに集中してもらうべきです。
主人公に感情移入してからであれば、読者も説明を聞いてくれるでしょう。
もし、謎や設定を、どうしても出したいというのなら、ちゃんと答えや説明をしてからストーリーを進めましょう。
読者に疑問を持たせたまま進めてしまうと、そちらに気を取られてしまいます。
いかがだったでしょうか。
冒頭ももちろんですが、「起」も同じくらい大事な部分です。
ここをしっかりと描いて、読者の心を鷲掴みにしましょう。
それでは最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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